京都大学エネルギー理工学研究所
エネルギー構造生命科学研究分野 片平研究室 (K-12分野)
(京都大学大学院 エネルギー科学研究科
                 エネルギー基礎科学専攻 生体エネルギー科学分野(K-12))

研究概要

研究概要の ポスターはこちら

 
我々は、病気(エイズ、癌、プリオン病等)や神経細胞の万能性に関連したタンパク質及び機能性RNAに関し、機能発現メカニズムをこ れらの分子の3次元立体構造に基づいて解明しようとしています。 いったんメカニズムが明らかになれば、その知見に基づきより有用な機能性分子へと改変していく事も可能となり、創薬等に向けた指針も得られます。また立体構造からのアプ ローチと並行して、 機能性分子の働きを培養細胞等を用いて生体内で検証することも行っています。

 また非可食性木質バイオマスの構造解析と動態の解析を行い、得られた知見に基づいて木質バイオマスから、バイオエネルギー(バイオエタノール等)及び各種製品(バイオプラスチック、化粧品等)の原 料となる有用物質を取り出す新しい手法を開発する事を行っています。最終的には環境に負荷をかけないバイオリファイナリーへのパラダイム シフトを見据えて研究を行っています。

 研究に供する試料の調製及びより有用な分子への改変は、遺伝子操作の技術を駆使して行っています。 また3次元立体構造の決定は、 3台の核磁気共鳴(NMR)装置を用いて行なっています。 培養細胞を用いた検証は、RNAi等の分子生物学的な手法と蛍光観察等を組み合わせて行なっています。 具体的な研究内容を以下に記します。

 

1. 抗HIV活性を有するヒトのタンパク質APOBEC3G

 APOBEC3GはHIVのマイナス鎖DNAに作用し、シトシンをデアミネーションしてウラシルに変換する事で、HIVのゲノム情報 を破壊して抗HIV活性を示します。 このタンパク質の立体構造と標的DNAとの相互作用様式をNMR法によって決定しました。またデアミネーション反応を、NMRシグナルを用いてリアルタイムでモニタリング する事に、世界で初めて成功しました。 得られた知見は、抗HIV薬の開発に有用であると期待されます。


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2. プリオンタンパク質を高い親和性で捕捉するRNA分子(RNAアプタマー)

 このRNAアプタマーの立体構造をNMR法によって決定し、グアニン塩基4個とアデニン塩基2個からなるヘキサッド構造を有する特異 な4重鎖構造を形成する事を見出しました。またRNAアプタマーとプリオンタンパク質の複合体の構造解析から、高い捕捉能が発揮されるメカニズムを明らかにしました。 さらにこのRNAアプタマーには抗プリオン病活性がある事を生細胞を用いた実験によって実証しました。


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3. 木質バイオマス

 食糧問題を引き起こす事のない木質バイオマスの活用は、化石燃料への依存からの脱却に向けて大きな可能性を有しています。 我々は木質バイオマスを溶液NMR法によって解析する手法の開発を行っています。これによって他の解析手段では得る事のできない情報を得、木質バイオマスの新規活用 法の確立を目指しています。 化粧品やバイオプラスチックとしての活用が共同研究で具体化しつつあります。また、セルロース分解酵素とリグニン分解酵素に関する構造生命科学研究をスタートさせています。これによって木材腐朽菌というバイオの力によって、木質バイオマスからバイオエネルギーと有用物質を効率的に獲得する事を目指しています。以上によって石油依存から脱却したバイオリファイナリーへのパラダイムシフトを目指しています。

 学外の研究機関との交流も盛んで、現在東大、阪大、九大、北大、慶応大、横浜国大、横浜市大、千葉工大、産業技術総合研究所及び民間企業 と、共同研究を行っています。

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4. 環境を感知して作動する核酸酵素・核酸アプタマーの創製

  自らが置かれたイオン環境を感知して、酵素活性やアプタマー活性がオン/オフする機能性核酸を創製することに成功しました。この機能性核酸は細胞外に相当するカリウムイオン濃度では活性がオフですが、細胞内に相当するカリウムイオン濃度では活性がオンになります。


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5. 神経前駆細胞の未分化状態(多分化能を有する状態)の維持に関わるタンパク質Musashi

 Musashiは標的遺伝子のmRNAの3’非翻訳領域に結合して翻訳を阻害する事で、未分化状態を維持しています。 Musashiと標的RNAの複合体に関して、新しいNMR法(常磁性緩和促進、残余双極子結合等)を駆使する事でロングレンジ(30 Å程度)の構造情報を抽出し、立体構造を決定しました。 またポリA結合タンパク質との相互作用の解析も進行させています。これによりMusashiによる特定遺伝子の翻訳抑制機構の全貌を明らかにしつつあります。


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6. ノンコーディングRNAとタンパク質の相互作用

 転写の抑制やテロメア長の制御に関与しているノンコーディング(非コード)RNAと、これと相互作用するタンパク質に関し、機能発現メカニズムを構造生命科学的アプローチによって解明することを進めています。


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