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研究内容

テーラーメード酵素
     
 生物は常温・常圧・水の中で1)体内にエネルギーを供給する、2)エネルギーを貯蔵できる形に変換する、3)エネルギーを利用して生命活動を行う、というシステムが構築されています。具体的には、食物の摂取や太陽光の吸収により体内にエネルギーを供給し、それらのエネルギーを活性化された運搬体の「化学結合エネルギー」という形で貯蔵し、便利な貨幣として利用することでクリーンかつ高効率なエネルギー利用システムを実現しています。
 生物のエネルギーシステムは、酵素に代表される機能性生体高分子によって構築されており、様々な機能を発揮するテーラーメイドな機能性生体高分子を自由自在に作製することができれば、自然環境との調和・共存を目指す持続可能社会を実現できます
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RNAとペプチドの複合体(RNP)を用いた機能性生体高分子の作製法の開発
 テーラーメードな機能性生体高分子を構築する上で、RNA とタンパク質それぞれが持つ化学的特質を活かし、複数の生体高分子サブユニットを協同的作用が発揮出来るように立体的に配置させれば、RNAもしくはタンパク質単体よりも高い分子認識能と化学反応性を有する分子の構築が期待できます。
 私達の研究室では、天然に存在するRNAとペプチドの複合体基本骨格(Revペプチド-RRE RNA)に対して、機能性RNAおよび機能性タンパク質の創製に利用されてきた進化工学手法(インビトロセレクション法とファージディスプレイ法)が適用できることを明らかにしました。 現在は、進化工学的手法の応用に加え、構造モジュールの分子設計を取り入れて、RNA-タンパク質複合体から合目的に蛍光センサーや酵素を作製する方法論の確立を目指しています。
 我々はこれまでに、RNA-ペプチド複合体(RNP)に進化工学手法を適用して、標的の化合物に特異的に結合する分子(RNPリセプター)を作製できることを明らかにしてきました(J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 4617)。さらに、RNPリセプターに蛍光分子を修飾して、特定の基質の結合に伴って蛍光強度が変化する「蛍光性RNPセンサー」を作製する方法論を開発しました(J. Am. Chem. Soc. 2006, 128, 12932)。
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 また、この方法論を適用して作製した「ATP結合性RNPセンサー」の基質認識様式を詳細に検討することによって、 ATP結合前後においてRNPセンサーのダイナミックな構造変化が誘起されており、これが基質認識に伴う蛍光変化に直接関与していることを明らかにしました (J. Am. Chem. Soc., 2011, 133, 4567)。さらに、この結果に基づいて、いくつかの蛍光性RNPセンサーの合理的設計が実現しました (Bioorg. Med. Chem. Lett., 2011, 21, 4503)。
 さらに、蛍光性RNPセンサーのRNAサブユニットと蛍光修飾Revペプチドを、リンカーを介して共有結合により連結した蛍光性RNPセンサーを作製することで、それぞれの標的分子に対して異なる蛍光波長で応答する複数の蛍光性RNPセンサーの開発に成功しました。これらの蛍光性RNPセンサーを同一溶液中で用いることで、酵素反応によって変換される基質と生成物を異なる蛍光波長で同時に検出することに成功しました(J. Am. Chem. Soc. 2013, 135, 3465)。
 これらの知見を活かして、現在は特定の基質に対して標的の化学反応を効率よく進行させる「人工RNP酵素」の合理的な設計方法、ならびに効率的な分子選択・作製方法の開発を目指して研究を進めています。
 
RNAとペプチドの複合体(RNP)を用いた人工酵素の作製方法の開発へ向けた研究
 前述のとおり、RNPを段階的に機能化して、標的の基質に特異的に結合する「RNPリセプター」の基質結合性を維持したまま、蛍光分子を修飾することで「蛍光センサーに簡便に改変する方法」を確立してきましたが、「蛍光分子」を「触媒分子」に変更すれば、リセプターと触媒分子がRNAとペプチドの相互作用によって連結された複合体を作ることができると考えられます。
 さらにその触媒分子が、基質の結合場に適切な配置で近接することができるようにすれば基質に結合したのち触媒分子への近接効果により化学反応が効率的に進行する「リセプター触媒(リセプター酵素)」を作製できると考えました。我々は、様々な立体構造をもつ「基質結合RNPリセプター」を用意し、そのペプチドサブユニットに「様々な立体構造持つペプチドのリンカー」を介して触媒分子を修飾した「触媒分子修飾ペプチドライブラリー」を用意することで、その組み合わせによって非常に膨大な数の「基質結合-触媒分子の間の立体配置が異なるリセプター」を簡便に用意できる方法を確立しました。そして、この「構造多様性をもつリセプターライブラリー」の中から、標的化学反応に対する実際の触媒活性を指標として、近接効果により標的反応の加速が生じる「触媒活性をもったRNPリセプター」を獲得することに成功しました。(Bioorg. Med. Chem. 2017, 25, 1881-1888.)この方法を用いて、今後、ライブラリーの多様性をさらに拡張することで、様々な化学反応に対して、高い触媒活性を示す「RNPリセプター触媒」を作製していくことができると考えられます。