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研究内容

シグナル伝達を理解するためのバイオセンサーの創製
 細胞内シグナル伝達を理解する上で、生体内情報伝達分子(セカンドメッセンジャー)の単一細胞内での動態を生きた状態で観測することが重要である。カルシウムを細胞内でリアルタイムに定量する技術は、既出の蛍光バイオセンサーや、蛍光性人工リセプターなど、数多く開発されているものの、他のセカンドメッセンジャーについてはその開発が遅れている。特に、イノシトールポリリン酸は、細胞内で多くの重要な役割を果たす分子として認識されていながら(下図)も、多様なその構造を精微に区別して高感度に検出するセンサーの開発は限られており、いまだイノシトールポリリン酸の動態に関しては、謎が多く存在している。
 我々は、PLCδ1 PHドメインのIP3結合領域の構造情報をもとに、システインを導入し、蛍光小分子を化学修飾することで、水溶液中でIP3の濃度変化を追跡可能な世界初のIP3蛍光バイオセンサーの構築に成功した。(ref.1)
 さらにこのIP3蛍光バイオセンサーに、細胞導入ペプチドを付加することにより、細胞内でのIP3の可視・定量化できることを明らかにし、刺激に応じて細胞内カルシウム濃度と連動した細胞内IP3濃度変化の検出に成功している。(ref.2)特筆すべき点として、我々のIP3蛍光バイオセンサーは、天然のPHドメインが結合するPIP2に対して結合能を示さないため、IP3選択的にリアルタイムに観察することが可能であった。
 また、由来の異なるPHドメイン(GRP1)を基本骨格とし、同様の手法で蛍光小分子を導入することで、IP3の代謝産物であるイノシトール四リン酸(IP4)に対して高選択的な蛍光バイオセンサーを構築し、エレクトロポーレーションにより細胞内に導入することで、細胞内でのIP4のリアルタイムな観察に成功している。(ref.3)
 さらには、遺伝子工学的手法に基づいて、cpGFPに分割型PHドメイン(Btk由来)を導入することで、IP4をレシオ検出可能な蛍光バイオセンサーの構築にも成功している。(ref.4) これは、遺伝子導入により細胞内で自発的に構築できることから、今後さらなる改良を加え、細胞内でのIP4検出へと展開が期待される。
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 以上のように、我々は単一細胞内でイノシトールリン酸種を網羅的かつ同時にリアルタイム計測するための蛍光バイオセンサーの構築を、遺伝工学的手法や化学的手法を駆使しながら積極的におこなっている。 今後、単一細胞内で外部刺激に応答して起こる様々なイノシトールポリリン酸種濃度の時空間的変化を、我々が開発したそれぞれのイノシトールポリリン酸種に選択的なバイオセンサーで同時計測することで、過渡的に生成するイノシトールポリリン酸代謝の経時的変化を明らかとし、 細胞内シグナル伝達機構におけるそれらの役割を明らかにすることができると期待している。
1) T. Morii, K. Sugimoto, K. Makino, M. Otsuka, K. Imoto, Y. Mori, J. Am. Chem. Soc., 124, 1138 (2002)
2) K. Sugimoto, M. Nishida, M. Otsuka, K. Makino, K. Ohkubo, Y. Mori, T. Morii, Chem. Biol., 11, 475 (2004).
3) R. Sakaguchi, K. Tainaka, N. Shimada, S. Nakano, M. Inoue, S. Kiyonaka, Y. Mori, T. Morii, Angew. Chem., Int. Ed., 49, 2150 (2010).
4) R. Sakaguchi, T. Endoh, S. Yamamoto, K. Tainaka, K. Sugimoto, N. Fujieda, S. Kiyonaka, Y. Mori, T. Morii, Bioorg. Med. Chem., 17, 7381 (2009).
※本紹介文は、論文として発表した内容について記載してあります。この他にも関連する研究をおこなっており、論文として発表次第、随時更新していきます。