環境微生物学研究分野

附属エネルギー複合機構研究センター 環境微生物学研究分野
特定教授:原富次郎 特定准教授:高塚由美子
エネルギーと環境の問題は切っても切れない関係にあります。私たちは、今も多くを化石エネルギーに大きく依存しており、そこから排出される温室効果ガスにより、地球環境の調和が乱れることが懸念されています。また、これまで石化エネルギーがもたらした文明の発展の影に残る環境汚染を修復するためには、多くのエネルギーを必要としています。われわれは、持続可能な社会を作り上げるための手段の一つとして、物質代謝においてエネルギー利用効率が非常に高い「酵素」を利用した実用的なアプリケーションの開発に取り組んでいます。

先進的な環境修復に向け、酵素の酸化・還元反応を利用した最適なプロセスを確立する

 ポリ塩化ビフェニル類(PCBs)は、多様な塩素置換体を持った同族体からなる有機塩素化合物で、かつて夢の物質として讃えられ、さまざまな産業で利用されました。しかし、その化学的性質は難分解性かつ高残留性であり、ヒトへの内分泌攪乱作用も示すため、今では著名な環境汚染物質として世界的な廃絶が進められています。ビフェニルジオキシゲナーゼ(BDO)は芳香環水酸化酵素の一種で、PCBs の芳香環に対し分子状酸素の2つの酸素原子を水酸基の形でcis 型に導入する反応(酸素添加反応)を触媒して芳香環の開裂を誘導し、PCBs を分解するきっかけを与えます。われわれは、特異性が異なる酸素添加反応を持った2種類のBDO による複合的な酵素触媒製剤と、BDO の活性を高める酸素マイクロバブルを生成するバイオリアクターを開発しました。その結果、これらの触媒とマイクロバブルの協調反応により、24時間までに40 mg L-1の産業用PCBs を99% 以上分解できる実用的なシステムの構築に成功しました。この複合的BDO 反応を発展させるため、現在はPCBs を電子還元させるユニークな人工酵素の創生に挑戦しています。(図・A.B.C.D.)

A. ビフェニルジオキシゲナーゼ(BDO) を生産する Comamonastestosteroni YAZ2株の電子顕微鏡像。本菌株はグラム陰性桿菌。顕微鏡の倍率は10,000倍。スケールバーは 1μm 。

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B. PCBs への酸素添加反応を触媒するBDO の分子構造モデリング(PDB より引用)。

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C. BDO がビフェニルへ酸素を添加し、一方の芳香環を水酸化する酵素反応。

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D. 40 mg mL −1 の市販PCBs と、複合酵素触媒を反応させた結果、 24 時間以内にコントロール(上)と較べて 0.3mg mL −1 まで分解した(下)。PCBs の分析はガスクロマトグラフ四重極質量分析計で行った。

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環境調和型の食糧生産に向け、酵素の加水分解・転移反応を利用した最適な植物病害防除プロセスを確立する

 農栽培時に発生する病害の多くが子嚢菌や担子菌と呼ばれる「カビ」に起因します。カビは菌糸として生長し菌糸体となります。菌糸を構成する細胞の壁は、グルカンやキチン、マンナンが複雑な複合糖鎖構造をとっており、しなやかで強固な性状のミクロフィブリルの形成に貢献しています。グリコシダーゼは糖鎖を加水分解する酵素です。われわれは、グリコシダーゼのミクロフィブリルに対する加水分解反応を利用した、植物伝染性カビの防除法の開発に取り組んでいます。これまで「多様なグリコシダーゼを生産し、細胞外へ分泌する性質を持ったバシラス綱細菌5株で構成させた複合系細菌触媒が、99.3% と高い奏効性で、栽培トマトの葉面に発生するペスタロチオプシスを防除する。」という結果を示しました。グリコシダーゼは 約130のファミリーに分類され、その触媒活性は大きくアノマー反転型やアノマー保持型、あるいはエキソ型やエンド型にも分かれるため、多様です。このような触媒活性の違いを複合的に上手く利用することによって、カビの細胞壁を効率良く壊すことができるのではないかと考えています。(図・E.F.)

E. 植物伝染性被験菌 Trichoderma virideNBRC30546株 株(左:コントロール)を、酵素により処理した(右)顕微鏡像。酵素反応条件は 30℃ で 6 時間。ラクトフェノール・コットンブルーで染色した。顕微鏡の倍率は 400 倍。スケールバーは50μm 。

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F. グリコシダーゼがカビの細胞壁を消化する様子を表したイメージ。

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