蓄積リング中を周回する運動エネルギーTの高エネルギー電子が電磁石等で曲げられた時,磁束密度をBとすれば,曲率半径,
ρ [m] 〜 3.3T [GeV] / B [T] [SI units], (1) の円軌道に沿って曲げられ,軌道の接線方向にシンクロトロン放射(synchrotron radiation, SR)を発生する.SRは赤外から軟X線まで,非常に広い波長範囲をカバーする高輝度光源であり,特に従来高品質な線源が存在しなかった真空紫外から軟X線の領域で,新しい線源として注目されてきた.これは,高エネルギー電子と磁場によって準位を作り出していると言える. 例えば,産業技術総合研究所(産総研,旧電子技術総合研究所,以下では,時期を問わず全て産総研と略して書く)電子加速器施設においては現在3台の蓄積リングが稼働しているが1),そのうちTERASの平面図をFig. 2に示す2).このリングは,ρ=2 [m]で,蓄積リングとしては比較的小型のものである.図のように,分光器で波長を選択することによって,同時に多くの実験を行うことが可能であり,利用効率が高い.TERASから発生するSRのスペクトルを,蓄積電子エネルギーをパラメータとして,Fig. 3に示す. |
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電子エネルギーが高くなると,短波長側のSRが増加する.電磁石による磁束密度には限度があるので,SPring-8のように短波長領域のSRを発生する場合は,式(1)によってρ が大きくなり,従って蓄積リングも大型になる.Fig. 2のように蓄積リングが全て同一の電磁石で構成されている場合,蓄積リングから発生するSRの全パワーPtは,蓄積電流ををIとすれば, Pt [kW]=88.5 T4 [GeV] I [A]/ρ [m] ,(2) となる. SRは,特に真空紫外からX線の領域で,従来存在しなかった光源として精密計測・分析等に使用されているが,短波長側のSRによって,超LSIリソグラフィやLIGAプロセス等の材料やデバイスの加工も可能であり,次世代の極微細デバイスへの道を開くものとして多用されている. 蓄積リングでは,直線部に偏向電磁石より高い磁束密度のウィグラを置いて,通常より短波長のSRを発生することも可能である.Fig. 2に示したものは,10 Tの小型超伝導ウィグラ3)である.ウィグラ放射はEXAFS等の微細構造解析に多用されていられるが,LIGAプロセスや,冠状動脈造影(アンジオグラフィ)にも利用することができる.このように直線部に特殊な光源を置いて偏向電磁石とは特性の異なるSRを発生する機器を挿入光源と呼ぶ. Fig. 1に示した通常のアンジュレータも挿入光源の一種であり,電子を蛇行させてSRを発生させるものである.比較的長波長のSRしか出ないが,周期数が多いためにそのSRが干渉を起すことによって準単色になり,高輝度になる.この場合電子は一平面上を走るので直線偏光のSRが放出されるが,Fig. 2に示されている偏光可変アンジュレータは,もう1組のアンジュレータを直交させて置くことにより電子が螺旋運動をするので,円偏光を発生することも可能で,産総研の小貫によって発明された4).円2色性やDNA等の研究に有効であるとして期待されている. このように色々な波長や種類のSRを発生することができることは,アクティブな準位の創製の特徴である. |