セルラーゼとリグニンの相互作用をはじめて分子レベルで包括的に解明ーバイオマス変換や酵素科学に貢献ー
京都大学生存圏研究所(大学院農学研究科)博士課程学生の徳永有希氏と渡辺隆司 同教授は、永田崇エネルギー理工学研究所准教授、片平正人同教授らと共同で、植物バイオマス由来のリグニンとセルラーゼの結合を分子レベルで包括的に解析することに、はじめて成功しました。木材や草本などの非可食バイオマスを酵素糖化・発酵によりバイオ燃料や有用化学品原料に変換する際には、セルロースの分解酵素であるセルラーゼの投入量をいかに減らすかが、プロセス実現のボトルネックとなっていました。分解物に共存するリグニンは、セルラーゼに吸着して、酵素活性を強く阻害しますが、これまで、リグニンとセルラーゼの相互作用の分子レベルでの知見は限られていました。本研究は、セルラーゼの構成要素である糖質結合モジュール (CBM)とリグニンの結合に関与するアミノ酸を包括的にNMRで解析したはじめての研究であり、リグニンにより阻害を受けにくい酵素の開発、バイオマス前処理法の開発につながる成果です。
本研究成果は2019年2月13日付、「Scientific Reports」誌に掲載されました。
研究の背景と経緯
有限な化石資源に代わって木材や草本などの再生可能な非可食バイオマスからバイオ燃料や化学品原料を製造するプロセスの実現が求められています。非可食バイオマスの変換では、多糖分解酵素であるセルラーゼを用いてセルロースをグルコースまで分解した後、生成したグルコースを発酵菌でエタノールなどの有用物質に変換する方法が重要ですが、このプロセスにおいて、セルラーゼがセルロースだけでなく共存するリグニンにも吸着し阻害されることが大きな問題となっています。特にセルラーゼを構成するタンパク質ユニットであるCBMがリグニンへの吸着に大きく影響することが知られていますが、その詳細な結合メカニズムは十分に解明されていません。CBM-リグニン間の相互作用を解明する取り組みは数多くなされているものの、セルラーゼの活性・吸着試験に基づいた間接的な解析に留まり、CBMの直接的な解析や分子レベルでの結合部位の特定は困難でした。
研究手法・成果
本研究ではセルラーゼ生産菌として工業的に最も重要な糸状菌Trichoderma reesei が分泌するセルラーゼ(Cel7A)のCBM1に着目し、大腸菌を用いて正常フォールディングした状態でCBM1を発現・精製しました。得られたCBM1にスギまたはユーカリから抽出したリグニンを加えて2次元NMRで相互作用解析を行い、リグニンと相互作用している部位をアミノ酸残基レベルで包括的に解明することに初めて成功しました。本研究結果はCBM1の単独取得により直接的な解析を可能にしていることに加え、リグニンとの結合を分子レベルで理解するうえで不可欠な知見を与えるという点で方法論としても重要です。
波及効果、今後の予定
研究プロジェクトについて
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用語解説
リグニン: セルロースに次いで豊富に存在する有機資源。芳香族ポリマーであり植物細胞壁全般に存在する。バイオマス変換においてリグニンは酵素に吸着して、酵素活性を阻害するが、その吸着部位や吸着メカニズムは十分解明されておらず、阻害を受けにくい酵素開発の戦略も立てられていない。
セルラーゼ:地球上で再生産量をほこるセルロースの加水分解酵素。カビのセルラーゼの多くは、触媒ドメインと糖質結合モジュール(CBM)がリンカーでつながった構造をとっている。CBMは、リグニンに吸着するものが多い。
NMR法:核磁気共鳴分光法。物質の分子構造解析、相互作用解析などに用いられる。
論文タイトルと著者
タイトル:NMR Analysis on Molecular Interaction of Lignin with Amino Acid Residues of Carbohydrate-Binding Module from Trichoderma reesei Cel7A
著者:Yuki Tokunaga, Takashi Nagata, Takashi Suetomi, Satoshi Oshiro, Keiko Kondo, Masato Katahira & Takashi Watanabe
掲載誌:Scientific Reports DOI:10.1038/s41598-018-38410-9
お問い合わせ先
氏名・所属・職位 渡辺隆司・京都大学生存圏研究所・教授
TEL:0774-38-3640, 090-6966-8429 (渡辺)
FAX : 0774-38-3681
E-mail: twatanab@rish.kyoto-u.ac.jp (渡辺)
エネルギー理工学研究所
エネルギー利用過程研究部門 エネルギー構造生命科学研究分野 (片平、永田)
京都大学ホームページ
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2018/190213_1.html