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【実施報告】ZE研究会「シンビオ社会研究会令和5年度第1回研究談話会報告」(2023年12月13日、ハイブリッド開催)

シンビオ社会研究会は、エネルギー理工学研究所ZE拠点による提案型共同研究「複雑なエネルギーシステムの先進的な故障診断・信頼性評価手法の実験研究」を進めている。本年度は、故障診断と信頼性評価に関する3つの方法をエネルギー理工学研究所のヘリオトロンJプラズマ実験装置に適用する研究を進めてきた。今回の研究談話会では、Ze研究拠点の共催および日本保全学会西日本支部の協賛のもと、これらの研究の進展状況を第1部で報告し、第2部ではこの共同研究の次年度以降の新たな展開に資するため、核融合分野でのデータ駆動科学研究の状況について核融合科学研究所から外部識者を招いて講演をいただいた。

まず、第1部の冒頭において、吉川榮和氏(シンビオ社会研究会会長)より、本年度計画の全体概要の説明があった。続いて新田純也氏(アルカディアシステム(株))より、「電気機器高調波診断システムのヘリオトロンJへの適用」と題する報告があた。高調波診断技術を用いたヘリオトロンJの補機類(真空系、冷却系の各種ポンプ)の診断結果に関する紹介がなされた。次に、松岡猛氏(宇都宮大)より、「信頼性解析法GO-FLOWのヘリオトロンJ 水冷却系への適用」と題する報告があった。ヘリオトロンJの運転において重要な役割を果たしている水冷却系の信頼性/アベイラビリティ解析の実施状況の説明がなされた。水冷却系の主要な機器であるポンプ等の保守スケジュールを変更した時のアベイラビリティの時間履歴を算出し、適切な保守方法に関する検討結果が示された。さらに、黒江 康明氏(同志社大・京都工繊大)より、「システム思考が加速するデータ駆動科学―核融合プラズマ研究への応用」 と題する報告があった。最近のデータ駆動科学の流れを背景に,黒江氏らがこれまで提案してきたモデル内包学習をとりあげ、これがデータ同化などシステム、モデリング、データに関わる様々な問題を解決できることを示した。またこれの核融合プラズマ研究への応用についても議論がなされた。

休憩をはさみ第2部においては、横山雅之氏 (核融合科学研究所)より、「核融合研究におけるデータ駆動アプローチから統計数理核融合学の提案へ」と題する招待講演があった。横山氏は、自己紹介で高校時代の授業で将来核融合炉ができたらノーベル賞と聞き、京大へリオトロン核融合研究センターを知って京大原子核工学科に進学して大学院博士課程終了後文部省核融合科学研究所に助手として就職した。それまではシミュレーションの研究が主だったがLHDで実験グループのリーダーとなってからシミュレーションが現実とかけ離れている面があることを実感し、実験データを基盤とした研究として統計数理に着した本日の講演表題の『統計数理核融合学』を提唱していると前置きののち、講演の本論に入った。
(1) データを基盤としたアプローチの可能性の要点として科学研究における演繹と帰納の関係の対比から、核融合の分野で従来の伝統的な解析シミュレーション重視のアプローチから現象にまつわるデータに注目するデータ駆動サイエンスへの転換が求められる理由を論じた。
(2) 核融合炉の実現が視野に入ってきている現在、逆に詳細なデータが計測できないようになることを踏まえて、現在核融合プラズマ研究で計測が充実している今のうちに『推定』、『尤度』、『時系列変化』に注目した統計数理を応用した研究を強化することを提唱。
そして最近若い研究者によって開拓されてきた『統計数理核融合学』の成功例が紹介された。
① データ同化によるプラズマ状態変化の記述の実証とリアルタイム制御アルゴリズムの構築
② プラズマの突発的崩壊、放射崩壊発生の有無の分類・判別アルゴリズムの構成とそれによるリアルタイムの放射崩壊回避の実証
③ 核融合炉出力制御に直結するプラズマ性能の重要指標である中性子発生率の回帰型モデルの提起とそれを用いた中性子発生率向上の実験的実証