量子放射エネルギー研究分野 京都大学エネルギー理工学研究所 エネルギー生成部門 量子放射エネルギー研究分野 京都大学エネルギー理工学研究所
KUALIS (KU-FEL)

    自由電子レーザーは、真空中で光速近くまで加速された電子ビームが放出する光を利用したもので、一般に、連続的に波長可変で高強度の単色光が得られる特長があります。エネルギー理工学研究所では、研究室レベルの小型・高性能な装置を目指し、電子ビーム発生に熱陰極型高周波電子銃と呼ばれる電子源を利用しています。この方式の課題であった動作の不安定性を世界で初めて電子銃へ投入する高周波電力を精緻に制御することにより克服し、2008年に波長12.4 μmでレーザー発振に成功しました。 2018年5月現在、3.5〜23 μmの中赤外領域で波長可変かつ強力なレーザー光を共同研究等に提供しています。
     本装置で発生可能な中赤外域には、多くの分子の振動励起レベルが存在しているため、中赤外領域は分子の指紋領域とも呼ばれています。



     短パルスかつ大強度のKU-FELを用いることで、特定の分子結合を選択的に励起あるいは解離し、エネルギー・環境分野に応用可能な材料開発を始め、医療分野や生体化学などの様々な研究領域・産業分野への展開が期待されています。



    KU-FELで得られる波長スペクトルの例
     レーザー発生に使用する電子ビームのエネルギーを20から36 MeV まで変化させる事により、レーザー波長を3.5から23 μm の間で自由に変えることが可能です。レーザーの波長幅は中心波長に対し1~3%(半値幅)程度です。







    KU-FEL 加速器装置

    自由電子レーザーはレーザー発振に用いる電子のエネルギーとアンジュレータと呼ばれる磁石列の間隔を変更する事により、波長が連続的に変えられるレーザーです。
     京都大学エネルギー理工学研究所では中〜遠赤外領域波長可変レーザーによる先進エネルギー研究を推進するために、特に、大学の研究所レベルや産業界での利用を視野に入れた小型で経済的な自由電子レーザー施設(KU-FEL)の研究開発を進めてきました。
      KU-FELでは、電子ビーム発生に熱陰極型高周波電子銃と呼ばれる電子源を利用しています。この方式の課題であった動作の不安定性を世界で初めて電子銃へ投入する高周波電力を精緻に制御することで克服し、中赤外領域の高出力波長可変レーザーを利用研究に提供しています。





    電子ビーム特性(アンジュレータ部)
      ビームエネルギー 最大40 MeV
      平均電流  ~100 mA
      マクロパルス長 6.8 ms
      マクロパルス周期  1 Hz
      エネルギー広がり ~1% (FWHM)
     レーザービーム特性
      波長可変幅 3.5 ~ 23 μm
      マクロパルスエネルギー ~15 mJ
      マクロパルス継続時間 ~1.5 ms
    ミクロパルス尖頭出力 > 3 MW
    ミクロパルス時間幅 < 1 ps (FWHM)
      スペクトル幅 1~3% (FWHM)

    利用研究例

    〜固体材料における格子振動の選択的励起〜
     固体の格子振動は、常温では熱エネルギーが様々な方向の振動に少しずつ分配されて起こっています。(非選択的な格子振動励起)。一般に、固体中の電子と格子振動との相互作用(電子格子相互作用)の研究は、材料の温度を変化させながら様々な格子振動を同時に励起し、特性を計測することで行われてきました。
     しかし、高出力かつ、波長・偏光制御性の良い中赤外レーザーを用いて、狙った格子振動を選択的に励起できれば、物質中での電子格子相互作用が固体物性に与える影響の解明に重要である、それぞれの振動状態の詳細を知ることが可能になります。
     試料(6H-SiC)を14 Kまで冷却し、格子振動を抑制した状態で着目する格子振動のエネルギーに相当する波長のFELをプローブ光と同時に照射したところ、入射した光のエネルギー差が出射時に変化する非弾性散乱(ラマン散乱)が発生し、アンチストークス散乱光を観測することができました。これは、波長可変レーザーにより、固体の格子振動が選択的に励起されたことを示しており、レーザーによって格子振動の制御ができることを、直接的に示したことに相当する世界初の成果です。
     電子格子相互作用は、電気伝導特性や磁気特性といった固体の物性に影響を与える重要な因子であり、どの格子振動がどのような固体物性を発現させているかを明らかにする手段を得ることで、省エネルギーな電子デバイスの開発、また超電導現象の発生メカニズムの解明が進み、より高温条件で超伝導となる物質(室温超伝導物質など)の探索などに応用可能できることが期待できます。