京都大学エネルギー理工学研究所 エネルギー機能変換部門 ナノ光科学研究分野

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研究内容

「ナノサイエンスに立脚したナノ光科学の学理追及とエネルギー応用」

 カーボンニュートラルを含め持続的に発展可能な将来に向けて、社会受容性の高いエネルギー研究の重要性が益々増しています。本研究分野では、「ナノサイエンスに立脚した光科学の学理追求とそのエネルギー応用」を目標に掲げ、物性物理・物質科学・デバイス工学を基盤として研究を進めています。
特に、わずか原子数層の薄さの極限ナノ物質などの量子システムを対象として、そこで発現する特異な量子光学現象とその背景にある物理の理解を通して、新たな原理に基づくフォトニクスの開拓や太陽電池デバイスの実現など、光科学やエネルギー科学の新たな地平を目指して研究を展開しています。

研究テーマ1「ナノカーボン物質の光物性と応用」


ナノカーボン物質の特異な量子光物性

 カーボンナノチューブやグラフェンに代表されるナノカーボン物質は、ナノサイエンスを基盤とした新しい物質科学やエネルギー応用を展開する研究舞台として非常に興味深い。カーボンナノチューブでは、光で生成された電子とホールがクーロン力で束縛した状態である 励起子が、その光学的性質に大きな影響を及ぼすことが知られている。我々は、キャリアをドーピングした系において、ドープされたホールと光生成された電子とホールの三つの粒子が束縛した”荷電励起子(正のトリオン)”(固体中の水素分子イオン様な状態)が安定に存在しうることを見いだした。これは、室温という非常に高い温度領域で安定に存在する荷電励起子(トリオン)の世界で初めての観測例であり、カーボン系材料でスピン自由度を持ち、量子状態制御が可能な素励起を発見したことを意味する。

 

 カーボンナノチューブは、次世代の量子情報通信などの省エネルギー単一光源等への応用が期待されているが、その発光効率は低く(約1%程度)、その実現に向け効率を上げることが強く求められている。これに対して、炭素原子から構成されるナノチューブに酸素ドーピングを施し、発光特性や効率を詳細に調べた。その結果、室温で酸素サイトの部分では、ナノチューブ固有の部分(約1%程度)と比べ約20倍以上の高い効率で発光(約18%程度)していることが明らかとなった。さらに、高効率なアップコンバージョン発光の観測などの成果が得られた。

 これらの研究成果は、ナノ物質の構造を制御することで、物質固有の性質を超える新たな光機能性が発現しうることを示したという学術的な意味をもつ。それと同時に、量子情報通信で必要とされる室温動作の省電力量子デバイスに向けた第一歩であると考えられる。

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研究テーマ2「原子層二次元物質の光科学と量子光学応用」


原子層二次元物質のバレースピン光科学

 グラフェンの発見以降、"Beyond Graphene"として単層遷移金属ダイカルコゲナイドなど原子一層(数層)の物質系が出現し、物質科学・光科学の分野で大きなパラダイムシフトを迎えつつある。これら原子層物質では、極限的な量子閉じ込め効果の発現や波数空間での谷(バレー)とスピン自由度の結合など特徴的な物性が発現する。このようなバレーとスピンの自由度が結合したバレースピンによって、従来の電子の電荷自由度のみを利用した電子(エレクトロニクス)・光(フォトニクス)応用とは大きく異なる、新たな研究分野・工学応用へと発展しつつある。

バレースピンを利活用した新しいフォトニクスの実現に向け、原子層物質の光学的性質を詳細に調べた。単層遷移金属ダイカルコゲナイドにおいて、原子三層からなる非常に薄い系であるにも関わらず約10%におよぶ強い光吸収を示す事を明らかにした。また、電子受容性の高い分子を用い、化学ドーピングによるキャリア濃度制御と発光強度の増大を実現した。さらに、バレースピン・フォトニクスに向け鍵となるバレースピン緩和の物理メカニズムを明らかにし、バレースピン制御に向けた重要な指針を得ている。

 これらの成果は、我々が独自に提案しているバレースピン・フォトニクスの実現に向け、その礎となるバレースピンの発生・検出・制御に向けた大きなマイルストーンであると言える。

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研究テーマ3「原子層二次元物質・人工ヘテロ構造の量子光学デバイス応用」


原子層二次元物質・ヘテロ構造の
バレースピンデバイス

 近年、急速に研究が進展した新たな原子層物質では、クラマース縮重の破れに起因して発現するバレースピンという物理自由度を、一つの量子状態として見做して制御する道筋を見出し、その量子状態制御を基礎とした「バレースピン量子光学」という新しい研究への視野が拓けた。そこで本研究では、これを契機として究極の量子ドットを原子層ヘテロ構造で実現し、光科学・物質科学の接点にある従来の量子光学の枠組みを超えた「バレースピン量子光学」の学理を構築する。更に、それを応用へと橋渡しした「バレースピン量子フォトニクス」という新しい研究へと昇華させることを目的としている。  

 本研究を通してバレースピン自由度のコヒーレンスを長時間維持し、自在な量子制御が可能となれば、外部との情報インターフェースを有し、量子ビット間の相互作用を自在に制御することが可能な量子システムを実現しうる。これは、量子演算・暗号通信などの量子デバイス(量子ビット・単一光子源)としての応用への新たな道が拓かれることを意味する。

 これらバレースピン量子光学を機軸とした研究を通して、学術・応用両面においても新たな研究展開が期待される。 

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研究テーマ4「ナノマテリアル太陽電池デバイスの開発」


ナノスケールマテリアル太陽電池の将来

 新たなエネルギー科学に向けて、カーボンナノチューブや遷移金属ダイカルコゲナイドなどの新しい原子層ナノ物質をベースにした高機能・高付加価値な光電変換デバイス(太陽電池)の研究を進めている。これら新しい原子層ナノ物質は、エネルギー変換において既存の物質では困難な量子効果を活用できる可能性とともに、高い透明性・導電性を両立するなど、高性能・高機能な光電変換デバイスの側面を兼ね備えている。

 まず、ナノチューブを積極的に利用したヘテロ構造(ナノチューブ/Si)太陽電池をモデルケースとして研究を進めた。ナノ物質を用いたヘテロ構造太陽電池の光電変換メカニズムを詳細に理解することで、光電変換性能(効率)を向上するための新たな指針を得た。その結果、ナノチューブを利用したヘテロ構造太陽電池としては、論文公表時点で最高となる17%を超える光電変換効率を達成している。

 今後は、シフト電流などを含めた量子力学的な光電変換プロセスを積極的に利活用した、新たな太陽電池デバイスの実現を目指す。

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