模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態分布の解析に成功

Research Topics / 研究トピックス

笠田竜太 エネルギー理工学研究所准教授、河侑成 同研究員(現日本原子力研究開発機構)、坂本寛 日本核燃料開発株式会社主任研究員らの研究グループは、福島第一原子力発電所でも使用されていた炭化ホウ素制御棒の模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態分布の解析に世界で初めて成功しました。 これによって、炉心の重大な損傷を伴うような重大事故であるシビアアクシデント時(過酷事故)の溶融デブリ形成過程の解明が促進され、福島第一原子力発電所の廃炉の進展に貢献することが期待されます。

 本成果は、2016年5月10日午前10時(英国時間)に、英国科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

概要

 原子炉の出力の制御に用いられる制御棒は、中性子をよく吸収する材料によって炉心における核分裂反応をゆっくりと継続的に起こさせるために必要であるとともに、異常時において原子炉を安全に停止する上でも重要な機器です。

 福島第一原子力発電所を含む商用原子炉の制御棒には、優秀な中性子吸収材料であるとともに、高い融点(2400℃以上)を持つ炭化ホウ素(B4C)が使用されています。しかし、炭化ホウ素は、シビアアクシデント時において高温に晒されると、周囲のステンレス鋼材と共晶反応を起こし、単体での融点よりも低い約1150℃で溶融してデブリを形成することが想定されます。加えて高温水蒸気による酸化反応も生じると考えられます。これらの反応を通して、ホウ素は様々な化合物を形成しうるため、環境に放出される放射性物質の種類や量にも影響を及ぼす可能性があります。

 また、核燃料物質を含むデブリ中においては中性子をよく吸収するホウ素の存在位置を把握することが再臨界リスクの評価のために重要な情報となります。さらに、廃炉過程でのデブリ回収作業や回収されたデブリを貯蔵・輸送する際にも、含まれるホウ素を臨界管理上把握しておくことが望ましく、化学形態をサンプリングにより事前評価する必要があります。そして、安全かつ確実な廃炉作業の炉内でのデブリの分布を予測するための解析コードの検証と妥当性を確認する上でもホウ素の化学状態の評価が必要となります。

 これらのことから、溶融デブリ中のホウ素の存在位置と同時に化学状態を把握することが求められますが、従来の走査型電子顕微鏡を用いた元素分布解析法では、ホウ素の分布を測定することは可能でしたが、化学状態に関する情報は得られていませんでした。一方、大型放射光施設を用いることによって化学状態の詳しい情報が得られるものの、マイクロスケールでの空間分布の詳細を同時に得ることは困難でした。

 本研究グループは、走査型電子顕微鏡の一種である電子プローブマイクロアナライザ用に最近開発された軟X線発光分光器(EPMA-SXES)を用いることによって、これまで困難であった模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態を踏まえたマイクロスケールでの二次元分布解析に成功しました。

kasada.jpgのサムネイル画像軟X線発光分光装置(EPMA‐SXES)を操作し模擬溶融デブリ中のホウ素の化学状態分布を解析する様子

詳しい研究内容について

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